序 財団法人 新渡戸基金 |
一、「悲しき「太平洋の橋」の友情−新渡戸博士とシドモア女史−」
財団法人新渡戸基金事務局長 内川永一朗 |
二、講話「新渡戸稲造先生に学ぶ」
東京女子大学学長 船本弘毅 |
三、随想
「新渡戸博士に学ぶ」 青森県知事 木村守男
「今に活きる『新渡戸先生』」 東京文化学園理事長・短期大学学長 森本晴生
「今日にも新しく響く卒業生への訓示」 拓殖大学副学長・拓殖大学北海道短期大学学長 草原克豪
「『農業本論』と「地方学」に思う」 (社)国際農業交流・食糧支援基金会長 吉岡裕
「『農業本論』に思うこと」 岩手県立大学副学長 塚本哲人
「オーランド島の思い出」 前駐フィンランド大使 石垣泰司
「『武士道』と尊厳死」 医学博士・仙台ストレス病研究所鈴木心療内科 鈴木仁一
「日本医療組合運動の先覚者」 東京医療生活協同組合事務局長 溝口雅子
「新渡戸博士研究者鈴木実先生のこと」 岩手県東山町総務課長 藤野正孝
「新渡戸稲造と『資本論』」 大東文化大学教授 馬場宏二 |
四、「今、なぜ新渡戸稲造なのか−時代が求める高貴な精神の再興」
産経新聞常務取締役論説委員長 吉田信行 |
五、「『知的協力委員会』は新渡戸稲造の独創か」
新渡戸研究家 鳥居清治 |
六、「新渡戸精神と日米関係」
在札幌米国総領事 マイケル・メザーブ |
七、「台湾における新渡戸博士の学問的系譜」
台北駐日経済文化代表處代表 羅福全 |
八、「「象徴天皇」と『武士道』の間−皇室とクエーカーの人脈−」
新渡戸研究家 鈴木忠信 |
九、「フィラデルフィアでの国際結婚」
ファーバーフォード大学助教授 マシュー・ミゼンコ |
十、「真の国際性−多様の統一」
関西外国語大学教授 佐藤全弘 |
資料
「産業組合の精神に就いて」新渡戸稲造
「宮部金吾宛新渡戸書簡再補遺」(四・完)佐藤全弘
「新渡戸稲造博士の序文」−「上渾野」No.16− 鹿角市文化保護協会 奈良寿
「一枚の写真」上沼光紀
「新渡戸博士死去と当時の教え子の感想」女子経済専門学校 生徒3名
「(財)新渡戸基金維持会の新設と規程」
「蝕まれた国民」大阪毎日新聞での講演 新渡戸稲造
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10号はこれまでで最もページ数が多い。新渡戸が生涯をかけて架けようと努めた「太平洋の橋」は、第二次大戦後改めて再建されたが、50余年をへて、橋脚の土台の確かさが疑われる問題が続発している−例えば京都議定書批准、地位協定の見直しなど。
今号には、前札幌米総領事マイケル・メザーブが離任に当り語り残した「新渡戸精神と日米関係」、および日米関係の確立に努めたシドモア女史と新渡戸を論じた内川永一朗の「悲しき”太平洋の橋”の友情」が収められている。
昨年は『武士道』刊行100年を記念する種々の行事が開かれた。『武士道』は単に武士の道徳を示しただけでなく、実に豊かな示唆に富む本である。たとえば、そこにはすでに<象徴天皇制>を暗示する箇所がある。その点を取り上げた鈴木忠信の「象徴天皇と『武士道』の間−皇室とクエーカーの人脈」は、興味ある論考である。
今年91歳になる北大農学部出の鳥居清治の「知的協力委員会は新渡戸稲造の独創か」は、年来研究者の疑問としてきたテーマを、入手できるかぎりの資料を駆使してあとづけたものである。
一昨年台南で開かれた「後藤新平・新渡戸稲造国際シンポジウム」(第8号に収録)は画期的な研究会だった。台北駐日経済文化代表處代表の羅福全の「台湾における新渡戸博士の学問的系譜」は、その時のテーマをさらに深めたものである。
新渡戸稲造の多面的活動と、その底に一貫する精神は、農業、教育、国際外交、福祉、学術等、多くの分野で今また着目されつつある。「随想」10篇のテーマ中にも、それが反映されている。
昨年10月東京の国連大学で、同大学とユネスコ協会主催の「『武士道』発刊100年記念シンポジウム」が開かれた。その折の講演の一つが佐藤全弘の「真の国際性−多様の統一」である。これは新渡戸の国際心の思想的根拠を探り、それを内外の諸問題に適用したもので、新渡戸の思想の将来性を十分示す。
資料も今号は多い。新渡戸の講演が2つ、「産業組合の精神に就いて」と「蝕まれた国民」、後者は蛔虫駆除を呼びかける珍しいものである。連載4回目の「宮部金吾宛新渡戸書簡再補遺」は今号で完結。「一枚の写真」は明治天皇大葬に参列した新渡戸が一高の生徒たちと撮ったもので、提供者の父君上沼健衛(のち医師)や、矢内原忠雄、東龍太郎、泰豊吉らがうつっている。
もう久しく続いている超低金利政策は、基金の果実で活動している文化的財団法人には、まさに壊滅的打撃である。そのため新渡戸基金ではあらたに維持会をもうけ、その欠を補うこととなった。今年5月東京で結成したさいの東京女子大船本弘毅学長の「新渡戸稲造先生に学ぶ」を、「維持会の新設と規程」とともに収めている。
(関西外語大学教授・新渡戸稲造研究編集委員長 佐藤全弘)
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